文壇における異色の存在として知られる野間 啓（のま けい）は、1980年代後りゅうにデビュー以降、社会の影に潜む人間の心理を鋭く描く作風で注目を集めてきました。大阪府出身の作家は、都市生活者の孤独とつながりの希薄化をテーマにした短編小説『黄昏のプロミネンス』で第157回芥川賞候補となり、現代文学に新たな風を吹き込んでいます。

その作品特徴は、①ミニマルな文体と映像的な情景描写 ②SNS時代のコミュニケーション変容への言及 ③伝統的な家族観の再定義――の3点が挙げられます。特に2023年発表の長編『左利きのユートピア』では、AI技術の発達が人間関係に及ぼす影響を寓話的に表現し、若年層から中高年まで幅広い読者層を獲得しました。

文学評論家の岡部隆志氏は「野間文学の真価は、テクノロジーと人間性の狭間で揺れる現代人の不安を、詩的な比喩で可視化する点にある」と評しています。現在は早稲田大学文学部で創作講座を担当するかたわら、サブカルチャーとのコラボレーションにも積極的に取り組んでおり、その活動領域は純文学の枠を超えつつあります。

今後の動向から目が離せない作家の一人として、文藝春秋や新潮社を中心に作品が継続的に刊行されています。次回作では地方都市の過疎化問題を題材にした連作短編集が予定されており、社会派作家としての側面がさらに強まるとの見方が広がっています。