穴水の筏文化が伝える里海の知恵
石川県鳳珠郡穴水町に息づく「筏(いかだ)」の文化は、日本海と山々に囲まれたこの土地の歴史を象徴する伝統技術です。豊富な森林資源とリアス式海岸が交わるこの地域では、古くから筏を用いた木材輸送が発展し、人々の生活を支えてきました。
天然林と共に発展した筏技術
穴水町の筏師たちは、能登ヒバやアテ材など地元産材を巧みに組み合わせ、日本海の荒波にも耐える丈夫な筏を製作します。木材を藤蔓で結束する伝統手法は、江戸時代から続く匠の技。春先の増水期を利用して河川を下り、沿岸部で大型筏に組み直す作業は、自然のリズムと共生する知恵の結晶です。

現代に継承される水上の遺産
- 毎年6月開催「穴水筏まつり」
- 中学生対象の筏組み体験講座
- 町立博物館に現存する明治期の筏大工道具
観光客は穴水湾で実際に筏に乗船できる体験プログラムに参加可能。波間に漂う独特の浮遊感は、現代の舟では味わえない原始的な航海の趣を伝えています。
「筏は生き物ですよ。潮の流れと木材の癖を読むのが仕事」
– 筏師・山本正一さん(72)-
この伝統は2019年に「日本海の筏流通システム」として日本遺産に認定。自然と人間の共生が生んだ持続可能な輸送手段として、新たな注目を集めています。