近年、現代アートシーンで注目を集める友田真希の「フィスト」シリーズが、美術評論家たちの間で熱い議論を呼んでいます。2008年東京藝術大学卒業後、金属彫刻を専門としてきた作家が2021年に発表したこのシリーズは、従来の立体造形の枠を超えた革新的な表現で知られています。

「フィスト（拳）」をモチーフにした本作群の最大の特徴は、316L医療用ステンレス鋼と3Dスキャン技術を組み合わせた制作プロセスにあります。作家自身の拳を精密にスキャンしたデータを基に、CNC切削機で削り出される金属塊は、生身の肉体と工業製品の境界を問い直す哲学的アプローチを含んでいます。

2023年のヴェネチア・ビエンナーレ日本館展示作品では、直径2.4メートルの巨大な拳のオブジェが空中に浮遊するインスタレーションが話題を呼びました。磁気浮上技術を応用したこの作品は、重力と人間の意志の関係性を視覚化したとして、国際的な評価を得ています。

美術評論家の岡本太郎記念館学芸員・田中浩介氏は「金属の冷たさと肉体の温もりが共存する矛盾こそが、デジタル時代の人間存在を象徴している」と評します。作品表面に施された微細な指紋のディテールは、3Dプリンターでは再現不可能な手作業の痕跡が意図的に残されており、テクノロジーと手仕事の対話がコンセプトの核となっています。

現在、六本木の某ギャラリーで開催中の個展では、拳の造形を拡張現実（AR）で再解釈する試みも披露されています。来場者がスマートフォンを通して見ると、金属の拳が徐々に血肉を取り戻していくプロセスを体験できるというインタラクティブ要素は、現代アートの新たな可能性を示唆しています。