昭和の香り残る東京・下町で育った中野珠子が芸能界に足を踏み入れたのは17歳の春。地元の商店街でスカウトされたエピソードは、今でもファンの間で語り継がれる伝説的なエピソードです。当時のアルバム写真に見える丸い眼鏡とボブカットが、時代を超えて若々しい魅力を放っています。
若き日の珠子は新宿の小さなライブハウスで歌い続ける日々。1980年代のシティポップムーブメントに乗りながらも、独特の叙情性を帯びた歌声がプロデューサーの耳に留まり、1985年に発表した「ガラスの季節」が有線リクエストチャートで3週連続1位を記録。この時期のステージ衣装だった手作りのレースグローブが、現在ではファッションアイコンとして再評価されています。
デビュー前の苦労時代を支えたのは、実家が営んでいた喫茶店「マロニエ」での経験。客の会話を聴きながら作詞する習慣が、後の「都会の抒情詩」シリーズへと発展しました。当時を振り返り珠子本人は「コーヒーの香りとレコードの針の音が、私の音楽の原点」とインタビューで語っています。現在でも地元住民の間では、学生時代の珠子が配達していたメロンパンの味が懐かしがられるエピソードが残されています。